はじめに
片麻痺などの運動障害により利き手でうまく字を書けなくなっても、今はパソコンソフトのワープロを簡単に使える時代になりました。しかし、直筆には印刷された字とは違ったうれしいメッセージが伝わってくるものです。
このワークブックは、麻痺側となった利き手を交換して書字を練習したい、あるいは利き手を交換せずに、麻痺の残った手指で書字を練習しようとする皆さまのお役に立てるよう考えられました。一般にリハビリでは、書字にまつわるトラブルを見つけ、それを正していくという手法がとられますが、ここでは統合された書字スキルを身につけるため、絵などをとりいれながら良いところを伸ばし、楽しみながら練習していく、という手法をとっています。短所を正すというだけではなく、書字を書いて気持ちを伝えたい、絵を描いて自分を表現してみたいという長所を伸ばすことを大事にしています。
最初は、書字の形から離れて、全身の姿勢安定、眼と手の協調性、両手の協調性をみる課題から入ります。身体のバランス能力などを確認し、もし問題があればそこを注意する目的は、思わぬ徒労に出くわすことをできるだけ避けるためです。続いて、手の流れるような動きのスムーズさを求め、最後に細かな手の動きができるような課題へと段階づけました。
こうした考え方は、発達や学習障害、認知症としての書字障害に対しても応用できます。しかし、付随する様々な課題に対しては問題が残る可能性があります。このような障害が疑われる方は、できるだけ作業療法士、言語聴覚士などの専門家に相談しながらこのドリルをご利用ください。もし、お近くに相談できる所が無い場合、エルゴの通信教育あるいはウエブ上でのご相談に出来る限り対応いたします。ご利用方法については○○頁あるいは巻末をご参照ください。
このワークブックの特徴をまとめると以下のようになります。
1 この本の中では、イラストのモデルはすべて右片麻痺です。左手への利き手交換を設定していますので右手で書字を練習しようとする方は注意して、読み変えてください。
2 「急がば回れ」:最初に運動機能の評価と向上のため、書字とは直接関係がないと思われる練習がいくつもあります。回り道ですが、そうした全身の運動機能を把握しておくことが書字訓練の向上に役立つでしょう。
3 「姿勢が基礎」:書字姿勢は特に大事です。そのための配慮を重視しています。姿勢の制御についてはできるだけ挿絵を入れて説明しました。挿絵によって、紙の置き方、筆記道具の持ち方、線を引く方向、身体の支え方を簡単に理解することができます。
4 「段階づけ」:書字訓練では、体幹とその周辺のコントロールが良くなるまで大きめの字を書いて練習します。従って、マス目や行間などは大きめにしました。
字の大きさは、大きな字から始めて、徐々に小さな字にしていけるよう、行間が先に進むにつれて少しずつ狭くなっています。
5 「温故知新」:お手本とする文章は、主に古典から引用しています。今日まで残っている文章には、様々な先人からの貴重なメッセージがこめられています。
6 「好きこそ物の上手なれ」:楽しく学習するために、絵の模写、色ぬりを挿入しました。これらの模写や色ぬりは、字を書く時のリズムや、きれいなカーブを書くための練習となります。いくつかの絵は切り離して絵手紙や絵ハガキとして使えます。その他、カードにして贈るあるいは額に飾るといった使い方もできます。ぜひ、作品は記念として大切にとっておきましょう。
目 次
はじめに
書字リハビリ流れ図の例
第1章 書字のための準備
第1節 書字のための環境調整
第1項 机、椅子
第2項 紙と筆記用具
第2節 書字姿勢チェック
第3節 運動バランス
第4節 書字機能テスト
第2章 書字のための運動トレーニング
両手の協働
手関節と手指の交互反復運動
第3章 書字のための脳トレーニング
第4章 写字、模写
陶芸療法とリハビリテーション
陶芸による作業療法にの手引書として、技術を習得することができます。
本書は、主な読者対象として作業療法を学ぶ学生とし、陶芸を作業療法活動とするための方策について、できるだけシンプルに、わかりやすく、使いやすく、をモットーにまとめてみました。さらに「リハビリテーション」という副題には、リハビリテーション医学のみならず、福祉分野での教育や地域サービスなどで利用できる陶芸について考えてみようという意図があります。本来陶芸は保育、教育、地域活動、福祉関係など広く誰でも楽しめる活動です。作業療法士以外の読者の皆様は、本文中、作業療法という言葉が多用されていますが、セラピーと読み替えてお読みいただければ幸いです。誰でもどこでも陶芸を癒しのひとつとして活用いただきたいと思います。
そもそも作業療法としての陶芸とは、リハビリテーションの渦中にある人々が陶芸活動を通して新しい生き方を見つけていただくための支援方法論です。しかし、頁上の制限から作業療法としての基本的理論は別紙にその多くを依存することとし、ここでは陶芸を治療介入の手段として用いるための知識と技術習得を主に述べていきます。
陶芸は歴史的にも東洋の代表的産業のひとつでしたし、芸術品としても高く評価されてきたものです。さらに近年、このセラミック技術はさまざまな先端的産業にも生かされています。このような特徴を生かして、作業療法では古くからMajor Craft のひとつとして盛んに利用されてきました。従って作業療法士の勤務する多くの病院や施設で陶芸のコーナーや道具をそろえています。このような環境を生かし、評価や介入における段階づけの利用など、治療への応用に大いに役立てる使命を作業療法士は持っているといえます。
この本の章だてでは、作業療法技術学のカリキュラムにあわせて、いくつかの項目を選択してシラバスに載せられるようなコマ数で、基礎から応用までを演習できるように考えました。
さらに各章では、臨床実習や臨床現場でも使える簡単な知識と技術を提供するために、関連事項まで広げた解説を試みました。
編著者の一人である綿貫 克彦氏は、平成15年より聖隷クリストファー大学リハビリテーション学部作業療法学専攻において、陶芸の講師として学生の指導にあたってきました。その間、教科書探しには大変苦労いたしました。まず、有用だと思われる参考書は、どういうわけか数年で絶版になってしまいました。こうした経験を何回か経験した結果が、この本の出版動機につながりました。
さらに、学生の教育だけでなく臨床の現場でも陶芸を使った作業療法に、そして福祉やその他地域活動の現場でも、陶芸活動の実践にお役にたてていただけることがありましたら望外の喜びです。
「陶芸療法とリハビリテーション」 Q&A
1、Q: 陶芸と「リハビリ」はどういう関係なのか (手段なのか)
A: 陶芸はリハビリでの手段(運動機能、精神機能、発達支援など)ともなり、目的(趣味活動、社会参加、学習、仕事など)ともなります
2、Q:どういう人たちにどんなリハビリ効果が期待できるのか
A: 陶芸が好き、興味がある、以前にしたことがある、なじみのある作業だ、といった人たちには運動機能障害や精神機能障害などがあっても楽しく導入できる可能性が高いので、それぞれの方が抱えているリハビリ目的に合わせて計画を立てることができます。辛いリハビリではなく、いつの間にか長い作業時間に耐え、様々な機能向上が得られる楽しいリハビリになります。ただ、陶芸関係の仕事をしていたなど高度なレベルがイメージとしてある場合は、時に障害により失われた機能を露わにします。「意外とできた」「自助具や環境設定を工夫すればできる」というポジティブな結果になることが多いのですが、誠心誠意、ネガティブな結果とならないようにセラピストが介入します。陶芸作業になじみがない方の場合、病前あるいは障害前の状態で出来る陶芸作業を知らないので、障害による機能低下を露わにせずに楽しく陶芸に没頭できる可能性があります。陶芸療法は歴史的に精神科領域でもっとも古くから、今でも多くの病院で作業療法として取り入れられています。陶芸作品への興味、価値づけ、自分の能力の自覚などを観察、評価することでセラピストはリハビリとして介入ができます。
Q:認知症の予防や回復に役立つのか
A: 陶芸作業は皿作りなど、簡単でしかも食器として生活のなかにある作品を作ることができます。しかも言葉をあまり必要とせずに活動参加、社会参加することができます。これらの陶芸作業の特徴により認知症の方が失いがちな現実感、役割の喪失感などがカバーできます。現実感あるいは作業機会のない生活は、認知症の方達の不安感情、不穏行動の引き金になるので、陶芸は認知症の予防や回復に役立ちます。土を触ることは、原始的な欲求を満たし、土のしっかりした抵抗感は作業ができるという満足感につながります。
3、Q:専門書ではないのか
A: 刊行の主目的は、作業療法を学ぶ学生を対象に、陶芸を治療的に用いるための教科書として使ってもらうことです。しかし、陶芸作業そのものは誰でもできる活動ですので、とくに難しい内容ではありません。陶芸の技法につきましては、楽しく、簡単に、可愛らしくをモットーに、例えば干支の人形作りなどたくさんのイラスト入りで載せました。
4、Q:どういう人に読んでもらいたいか
A: リハビリを学ぶ学生、医療専門職の方々はもちろんですが、家庭や施設、病院、地域の中でのデイサービスやグループ活動としてのリハビリに関与している人々に読んでいただければ幸いです。
シニアの陶芸を趣味にしている人がボランティアをするようなときのハウツー本としても、使っていただけると思います。
園芸療法とリハビリテーション
植物とのふれあいを病の治療につなげる園芸療法。
その手引書として書かれた本です。
カタリコ(VOl.1)
表紙にエイブル・アートを印刷した雑誌。アートやさまざまな人のライフデザインの記事を中心に、身近な社会貢献の話題を提供します。VOl.1の特集は「芸術とライフヒストリー」です。
カタリコ(VOl.2)
特集「ボランティア」。
表紙の絵画作品(溝上強氏作)は、2011年の干支であるウサギをモチーフにしています。
「ergo(エルゴ)」は、もともとギリシャ語の「ergon(仕事)」からきています。
エルゴの意味は、一般的に仕事以外にスポーツ、遊び、趣味、日常生活などを含めた活動のことです。私どもでは、疾病、障害、高齢化などにより生活や仕事、余暇の過ごし方などに多少の工夫や変更を求めている方やそれに携わる方を対象として、豊かな生き方をめざした、さまざまな活動モデルを提案します。